引退後にやりたいことがないアスリートへ。仕事・ビジネスのすすめ

昨今は引退したアスリートが違法薬物の所持・使用で逮捕、詐欺に騙されて破産というような犯罪や不祥事を起こす「スポーツ選手のセカンドキャリア問題」が社会的な課題として認識されるようになりました。

しかし、「引退後に特にやりたいことがない」、「引退してからのことは考えていない」というアスリートが未だに多いのが現状です。

ラグビー・陸上などの企業の実業団所属アスリートであればとりあえず引退後はそのまま会社に残って仕事をしよう、Jリーガーやプロ野球選手などのプロスポーツ選手であればとりあえず引退後は一般企業に就職しようとなんとなく思っている人が多いでしょう。

セカンドキャリア問題が起こる原因は、自分のキャリアであるにもかかわらずこの「なんとなく思っている」だけの状態で引退を迎えてしまうことにあります。

では、引退後にやりたいことがないアスリートはどのようにすればいいのか、アスリートが抱えるセカンドキャリアの現状を調査し、これまでの成功例からアスリートに向いている仕事を考え、最後にどのようなマインドセットをすれば引退後にもう一花も二花も咲かせることができるのかを考えてみましょう。

「引退後にやりたいことない」アスリートが抱えるセカンドキャリアの課題

日本野球機構が毎年実施している現役若手プロ野球選手を対象とした「セカンドキャリアに関するアンケート」の資料をみてみると、セカンドキャリアの現状について意味のあるデータを得ることができます。

この資料は、フェニックス・リーグというプロ野球選手育成・教育のために開催される大会に出場する若手選手に「引退後の生活に不安をもっているか?」、「不安な要素は何か?」、「どのような職業がやってみたいですか?」というアンケートをもとに作成されたものです。

例えば、2018年の「セカンドキャリアに関するアンケート」では、引退後の生活に不安を感じている人は全体の62%で、そのうち70%は収入面や進路に不安を感じていることがわかりました。

また、やりたい職業についてはこれまでの調査で初めて「一般企業で会社員」が1位になりました。

これはプロ野球のセカンドキャリア支援制度(引退後の職業斡旋など)が整いつつあることも影響していると思いますが、これまでにはなかった調査結果となりました。

つまり、若手野球選手の大半は引退後の収入面や進路など生活がどうなるのかわからないという不安を感じており、そのために引退後は1番無難な会社員になりたいと思っているということです。

特にやりたいことがないから安定収入がもらえる会社にとりあえず就職する。

これでは一般的な高校生・大学生と同じになってしまいます。

むしろ一般的な大学生よりも社会に出る年齢が遅い傾向にあるアスリートにとって、この考え方では不利な状況になってしまいます。

アスリート・スポーツ選手として一般人にはない経験や能力があるにもかかわらず、セカンドキャリアに対する不安や思慮不足によって、逆に一般人と同じ土俵で経験や能力差をつけられた状況からセカンドキャリアをはじめようとしている人が増えているのが現状なのです。

スポーツ選手に向いている引退後の仕事・ビジネスとは?

では、アスリート・スポーツ選手としての一般人にはない経験や能力とはなんなのでしょうか。

また、それを生かした仕事やビジネスとはどのようなものがあるのでしょうか。

まず、1つ下記の引用を読んでみて下さい。

アスリードで成功する人って、よく言われがちなのが才能があると。
(よく言われる)才能っていうのは、”何もやらなくてもわりと先天的にあった能力”のことを言われますがこれは間違ってるんです。
基本的にあまり変わらない。才能っていうのは。
これは僕の哲学なんですけど。
でもアスリートになった人って才能があるんです。
何の才能かっていうと、努力できる才能があるんです。
この努力できる才能は、今のサラリーマンの人たちはもともとスポーツでアスリートを目指してなれなかった人達が大体多くサラリーマンになってるわけですよ。
起業家になったり、実業家になったり。
だいたい部活動してるわけですよ。大社長とかもね。
でもアスリートになれなかった。
もちろん悔しい想いをして今度実業家で努力を続けて成功したケースもあるかもしれん。
もともとアスリートって言うのは、努力できる才能は普通の人より長けてるんです。
ここがセカンドキャリアでものすごく大事になってくる成功の鍵なんで、アスリートで成功して勘違いしなければ、継続して努力はできるはずなんです。 なので謙虚な気持ちさえ持ち続けてやれさえすれば、もともとはこの強い気持ち、根性みたいなものが人よりはあるんで業種が変わっても必ず成功します。
原理原則は、どの業種に行こうと一緒です。

これはサッカー選手・実業家として活躍している本田圭佑さんが「本田圭佑、アスリートのセカンドキャリアについて語る」というインタービューで、「本田選手はアスリートを扱う経営者でもいらっしゃるわけですが、そのアスリートがほかの職種の人たちよりも秀でてる部分というのはどこか感じられますか?」という質問に対して答えたものです。

僕はこの意見に対してあらかた賛成です。

もちろん、アスリート全員がこのような「努力できる能力」を兼ね備えているというわけではありませんが、確かに目標達成への貪欲さや忍耐強さを含めた完遂力などのいわゆる「ライフスキル」をスポーツによって会得している可能性が高いでしょう。

これが選ばれしアスリートやスポーツ選手が持つ一般人にはない能力なのです。

では、この能力を生かす仕事やビジネスとはどのようなものなのでしょうか?

本田圭佑さんも最後に答えている通り、どんな業種・どんな仕事・どんなビジネスであっても高いライフスキルを生かすことができるでしょう。

ただし、高いライフスキルを存分に生かすには、「天井のない環境」が条件の1つとして必要でしょう。

一般企業の仕事のほとんどは「このくらいまでいい」という天井が決められています。

一般人にとってはその目安が安心につながるのですが、これまで自分で高い目標を設定し、試行錯誤を繰り返し、少しずつ目標に近づき、達成するというサイクルを繰り返してきたアスリートにとっては厄介なものになるでしょう。

自分の力を出し切らなくても出来てしまうことを与えられてそれを毎日繰り返すというのは、アスリートにとって苦痛でしかないでしょう。

そのため、自分でどこまでも高みを目指せる・自分で好きに試行錯誤を出来る環境に身を置くことは、アスリートのセカンドキャリアの仕事選びとしてはとても重要なことなのです。

また、現状としては引退後に1度一般企業に就職をして、スキルを得るなど独立の準備をして、転職もしくは起業をするケースが多くなっています。

つまり、最も向いているのは独立・起業などの自分でビジネスを起こす立場だといっても過言ではないでしょう。

アスリートが引退後にもっと活躍できるセカンドキャリアとは?

僕はアスリートやスポーツ選手はもっと社会で活躍できるポテンシャルを持った人材だと考えています。

「ファーストキャリア(スポーツ選手・アスリート)で頑張ったからもういいや」とそれよりも長いセカンドキャリアを棒に振るのは、個人としても・社会としても大きな損失なのです。

なぜ、アスリートとして引退を迎えると生きがいを失い、最悪の場合はバーンアウトや燃え尽き症候群のような無気力な状態になってしまうのでしょうか?

それはスポーツ選手・アスリートとしての自分が自分の100%を占めてしまっているからです。

人は複数のレイヤー(層)を生きています。

例えば、あなたのお母さんを思い浮かべて下さい。

あなたのお母さんはあなたの前では「母親」ですが、仕事場では「サラリーマン」、父親の前では「女性(パートナー)」、親の前では「子供」、趣味の先生の前では「生徒」など様々なレイヤーを生きています。

つまり、アスリートも複数のレイヤーを生きていること、そのレイヤーが積み重なって1人の人として生きていることを理解すべきだということなのです。

キャリア形成においてもこのような考え方を持つことができれば、アスリートはもっと引退後のキャリアで活躍をすることができるでしょう。

このような考え方はデュアルキャリアと呼ばれ、「アスリートとしてのキャリア(スポーツキャリア)」と共に「人としてのキャリア」が存在することを意識すべきという考え方になります。

「アスリートとしてのキャリア(スポーツキャリア)」は「人としてのキャリア」を豊かにするための1部であり全部ではないこと、そして「人としてのキャリア」はこれからも続くということを自覚すべきなのです。

先ほども引用で登場した本田圭佑さんはサッカー選手と実業家のパラレルキャリア(複業)を形成することで、両キャリアを充実させることができ、サッカーに依存しないどころか「俺にとってサッカーは人生のウォーミングアップだ」という名言を残しているのです。

決して「アスリートとしてのキャリア」と「人としてのキャリア」のどちらが重要かという議論ではなく、キャリアというのは個別に存在するものではなく、お互いに作用しながら築かれていくということなのです。

このように、アスリートがセカンドキャリアで活躍するためにはデュアルキャリアの考え方を取り入れることがとても重要なのです。

まとめ

今回は、引退後のアスリートの仕事・キャリアについて考えました。

決して、僕はアスリート・スポーツ選手は自分でビジネスを持たなければ成功できないとは思っていません。

指導者として活躍している人も、サラリーマンとして活躍している人も、士業(公認会計士、弁護士など)などの資格を取得して活躍している人も、数えきれないほどいます

これもアスリートである前に人であるという考え方をすればわかるでしょう。

人には得意・不得意や好き・嫌いがあるのが当たり前なので、自分に合ったキャリア形成をすることが重要なのです。

自分には「競技歴しかない…」なんてことはありません。

むしろ、アスリートには他人にはない経験と能力が備わっているのです。

それを生かして仕事を出来ればセカンドキャリアはより輝かしいものになるでしょう。

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。