スポーツ選手・アスリートのセカンドキャリアとは?言葉の意味と定義

あなたは「セカンドキャリアとは」と聞かれたらどのように答えるでしょうか?

一般的には、30代・40代でキャリアアップを目指すビジネスマン、50代・60代で早期退職や定年退職をした中高年、出産育児がひと段落した女性の再就職や転職を意味します。

しかし、引退したプロ野球選手やJリーガーなどのプロスポーツ選手や会社の実業団・大学の体育会のアマチュアアスリートにとって、その言葉はもう少し違う意味を持ちます。

なぜなら、競技スポーツの世界から社会へ出るというのは、単なる就職や転職とは違うからです。

今回は、セカンドキャリア.comにおけるスポーツ選手やアスリートの引退後の「セカンドキャリア」という言葉の意味・定義を検討し、そのあり方を考えてみたいと思います。

セカンドキャリアとは?言葉の意味・定義

まず、スポーツ選手やアスリートにおけるセカンドキャリアについて考えるまえに、一般的にセカンドキャリアという言葉がどういう意味で使われているのかを理解するところからはじめましょう。

ウィキペディア「セカンドキャリアとは人事労務用語で「第二の人生における職業」を意味する。用語としては定年後や脱サラ、育児を終えた後などのキャリアを指すが、特にプロスポーツにおいて多用される言葉であり、その範疇においてはプロスポーツ選手の引退後のキャリアを意味する。」

日本大百科全書(ニッポニカ)「会社員や公務員が定年退職後に、女性が出産や育児の後に、また、スポーツ選手が引退後などに従事する第二の職業のこと。」

人事労務用語辞典「中高年の定年退職後や女性の子育て後、またはプロスポーツ選手の引退後の、「第二の人生における職業」のことをいいます。」

デジタル大辞泉「《(和)second+career》スポーツ選手の引退後の仕事。また、会社員や公務員が停年後にする仕事。」

上記の引用からすると、一般的に本や論文では、セカンドキャリアとは「第二の人生における職業」を意味するといえるでしょう。

ここでは、定年・出産・引退という人生の区切りによって新たに就いた職業を「セカンドキャリア」の広義としておきましょう。

セカンドキャリアとは?ビジネスマンにとっての意味・定義

では、一般的なビジネスマンにとってセカンドキャリアはどのような定義をすることが適切なのでしょうか?

会社に勤めているサラリーマンにとって、定年退職、脱サラ、出産・育児などをきっかけとして一度仕事を辞め、再就職・転職によって決まる新たな職業がセカンドキャリアだといえるでしょう。

近年は「人生100年時代(100歳まで生きるのが当たり前の時代)」と言われ、社会に出てから1つの企業に勤めあげて定年退職を迎え、ゆっくり老後を過ごすといったライフスタイルは幻だといっても過言ではないでしょう。

社会人生活40年間(20代~60代)で老後40年間分のお金を稼ぐことは難しいでしょうし、なにもせずに40年間生きるというのもなんだか味気がないでしょう。

つまり、これからは1つのキャリア(シングルキャリア)だけで引退する人はいなくなり、セカンドキャリア・サードキャリア・フォースキャリア…と複数のキャリアを積む人が増えることは間違いないでしょう。

セカンドキャリアの目的は「収入を得るため」、「キャリアアップを目指すため」、「やりがいを得るため」など人それぞれですが、生きるために必要不可欠な選択になるでしょう。

では、もう少し掘り下げてそれぞれのケースについてセカンドキャリアの意味を考えてみましょう。

早期退職・定年退職後の50代・60代からのセカンドキャリア

中高年のセカンドキャリアはというのは、早期退職や定年退職によって一度会社を辞めた後に再雇用を受ける・転職して新しい職業につくことを意味します。

50代・60代の世代(バブル世代、段階ジュニア世代など)が大企業の社員構成の大きな割合を占めており、2017~2022年にはその人件費などの負担が大きくなると言われています。

そのため、早期退職という名のリストラが行われるケースも増えてきています。

しかし、中高年世代が転職先を見つけることは容易ではありません。

企業の中途採用は20~40代がピークで、50代以上となると半減します。また、ほぼ確実に収入等の待遇は悪くなるでしょう。

とは言っても、先にも述べたように退職後に隠居暮らし出来るという人の方が少ないのが現実でしょう。

つまり、退職後の中高年のセカンドキャリアというのは単なる「第二の人生における職業」ではなく、「退職後も生活を続けるために必要な労働」という意味合いが強いでしょう。

出産・育児が落ち着いた女性のセカンドキャリア

結婚や出産・育児を終えた20代~40代の女性のセカンドキャリアはというのは、育児休暇や退職後に復帰・再就職・転職して職業につくことを意味します。

近年は共働き家庭の増加に伴い、セカンドキャリアを歩む女性が増えています。データをみると育児をしながら働く女性は過去5年間(2017年)で約12%増加していることがわかります。

その要因として考えられるのは、世帯収入の低下、社会保障(年金など)への不信感、日本経済の停滞感などの将来への金銭的な不安が大きいと考えられています。

一方で、過去5年間で出産・育児によって離職した女性の約70%は就業していないというデータもあります。

つまり、子育てや家事に専念できるくらいに家計的余裕があるならば、家に入りたいという意識を持っている女性も一定数いるということです。

このように、出産や育児が落ち着いた女性のセカンドキャリアというのは単なる「第二の人生における職業」ではなく、「家計を補填するための労働」という意味合いが強いでしょう。

キャリアアップのためのセカンドキャリア

キャリアアップを目指した20代~40代のサラリーマンのセカンドキャリアはというのは、転職して新たな職業につくことを意味します。

このケースは先に決めたセカンドキャリアの広義に含まれる「人生の区切り」が存在していませんが、ここではセカンドキャリアとして扱いたいと思います。

近年は1つの企業に勤めあげるのではなく、3~5年ごとに転職を繰り返してキャリア形成をするという選択肢が支持されるようになってきました。

なぜなら、終身雇用制度や社会保障に対する懸念が大きくなってきているからです。

先に述べたように定年退職後に隠居暮らしをすることは難しいにもかかわらず、中高年になると再就職や転職が難しくなるという現実が浮き彫りになっている昨今、若いうちに自分のキャリアの幅を広げておきたいと思うのは当然のことでしょう。

つまり、キャリアアップを目指したサラリーマンのセカンドキャリアというのは単なる「第二の人生における職業」ではなく、「自分の可能性を広げるための仕事」という意味合いが強いでしょう。

セカンドキャリアとは?スポーツ選手にとっての意味・定義

では、これらを踏まえてスポーツ選手にとってセカンドキャリアとはどのような意味を持つのかを考えてみましょう。

一般的なセカンドキャリアの定義である「第二の人生における職業」とは、スポーツ選手にとってどのような意味になるのかを考えましょう。

先に挙げたサラリーマンと違うのは「仕事」の定義でしょう。

例えば、有名な企業の実業団の選手であれば競技で結果を残すことが「仕事」であり、いわゆるデスクワークは「仕事」ではありません。(表面上はやっていたとしても。)

これが全く毛色の違うことであるというのは理解できるでしょう。

前者は「限定性の高い仕事(〇〇さんにしかできない仕事)」ですが、後者は「汎用性の高い仕事(誰にでもできる仕事)」です。

前者の「仕事」は〇〇さんにとって生きがいであり、○○さんを○○さんたらしめている大切な要素(アイデンティティ)になります。

しかし、みなさんご存知の通り、社会の仕事のほとんどは後者のような「仕事」で成り立っています。

そのため、スポーツ選手の引退後のセカンドキャリアは一筋縄に「第二の人生における職業」という言葉では言い切れないのです。

なぜなら、スポーツ選手の「仕事」と社会の「仕事」は大きく乖離したものだからです。

では、アスリートにとってセカンドキャリアとはなんなのでしょうか?

セカンドキャリア.comでは、「引退によって喪失したアイデンティティを補完する社会的アイデンティティを獲得するための作業」がアスリートにとってのセカンドキャリアだと定義し、今後議論をしていきたいと思います。

アスリートにとってのセカンドキャリアのあり方とは?

では、最後にアスリートにとってセカンドキャリアはどうあるべきかを考えましょう。

競技スポーツのプレーヤーであること以上に”その人”が必要とされる仕事はほとんどありません。

経営者や事業主であればまた話は別ですが、基本的には引退後すぐにスポーツ選手ほどのやりがいや生きがいを仕事に求めることは難しいでしょう。

引退直後は喪失感が強いため、「早く以前のようなポジションに戻りたい」という感情に振り回されて間違った判断をしがちです。

よくワイドショーなどで取り上げられる元スポーツ選手の破産や不祥事などの悲惨な失敗の原因はこの喪失感から起こるものでしょう。

つまり、セカンドキャリアでは、これまでのスポーツで培ったライフスキルを活かし、新たな社会的アイデンティティを獲得することを目標として、その後の人生の地盤となるようなキャリアを築くように心がけると良いでしょう。

また、僕は現役のアスリートであるうちからセカンドキャリアを意識することの重要性を感じています。

これはデュアルキャリアと呼ばれ、人生や生涯のひとつの軸を「キャリア」と捉え、そこにアスリートとしての「キャリア」というもうひとつの軸を加えた「二重性」を示す概念です。

つまり、アスリートとしてのキャリアのすぐ隣には人としてのキャリアが流れているということを意識し、2つのキャリアを生きることが重要であるということです。

例えば、本田圭佑選手はこのデュアルキャリアの考え方を体現しているといって良いでしょう。

プロサッカー選手として世界の舞台で成功を収めながら、カンボジア代表の監督になったり、経営者として事業をしたりとアスリートとしての人生と人としての人生を両立して生きています。

もちろん、全てのアスリートがこの規模のデュアルキャリアを実現するべきだとは思いませんが、少しでも現役中から人としてのキャリアを意識して勉強や仕事を始めるなどの準備をしておくことをおすすめします。

このようなデュアルキャリアの考え方を採用すれば、引退後もいわゆるセカンドキャリアではないキャリア形成が出来るのではないでしょうか?

まとめ

スポーツ選手にとってのセカンドキャリアというのは、一般的な再就職・転職を意味するセカンドキャリアとは異なります。

もちろん、ひとまとめにスポーツ選手と言ってもその人によって違いますが、少なくともこれまでの「仕事」と社会における「仕事」の差を感じることがあるでしょう。

ただ、プロアマ問わずアスリートというのは他の人にはない特別な経験をていることは間違いありません。

だから、その経験によって育まれた人間力を社会でも発揮できるように準備することが重要でしょう。

また、そのような社会にとって有益な人を生かすためのセカンドキャリア支援制度も企業はすすめていくべきでしょう。

過信せず自信と余裕を持ってキャリアを積み重ねれば、スポーツ選手引退後はもっと素晴らしい経験をすることができるのではないでしょうか?

”俺にとってサッカーは人生のウォーミングアップだ ”  本田圭佑(2014年NewsPicksインタビュー)

最後に、この名言を送りたいと思います。

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