スポーツ選手・アスリートのセカンドキャリアにおける資格取得の価値

スポーツ選手やアスリートにとって引退後のセカンドキャリアというのは、初めて社会に出る機会となるケースがほとんどです。

そのため、「スポーツしかやってこなかったから…」という不安や「やりたいことない…」という無気力状態に陥りがちです。

その結果として、破産・不祥事・犯罪などの社会的なセカンドキャリア問題が起こり、”悲惨な転落人生”とテレビ番組で取り上げられるのです。

僕は、そのようなセカンドキャリア問題を解決するための1つの手段として資格取得が考えられると思います。

今回は、スポーツ選手・アスリートのセカンドキャリアにおける資格取得について、その価値とおすすめの資格、成功例を紹介し、最後にセカンドキャリアをどう生きるべきか意見を述べたいと思います。

アスリートの引退後のセカンドキャリアにおける資格取得の価値とは?

まず、アスリートが引退に向けてもしくは引退後のセカンドキャリアに向けて資格を取る価値についてみてきましょう。

スポーツ選手の多くは引退するまで社会経験がない人がほとんどです。

また、高校・大学への進学も、就職もすべて競技で残した結果によって導かれたものであることが多く、社会の縮図(受験勉強や就職活動など)すら経験したことがないケースも決して少なくありません。

そのため、競技以外での成功体験・失敗体験が皆無な人がほとんどなのです。

だから、セカンドキャリアで資格を取得するということの1番の価値は「スポーツ以外で社会的な成功体験を得られること」だといえるでしょう。

そうすることで、冒頭で触れたような不安や無気力状態から脱し、社会でもやっていけるかもしれないという前向きなスタンスを獲得することができるのです。

しかし、資格を取得したからと言って社会的な価値を手に入れたということではありません。

「資格を取ったからこれで社会人として生き残れる!」という思考は現実逃避でしかありません。

もちろん、資格はものによっては就職や転職、独立に有利にはたらく材料の1つではありますが、資格取得が目的となってしまっては本末転倒です。

資格はなにか自分の実現したいことのための有効な手段であり、持つことが目的となってはいけないのです。

だから、なんでもいいから資格を取るというのは資格の価値を見誤っているといって良いでしょう。

「行政書士の〇〇です!」ではなく、「〇〇です!行政書士の資格も持っています」と言えるような資格・職業の使い方をすることが重要です。

資格はセカンドキャリアのオプションの1つであり、自分の人生をより良くするためのものだということを忘れてはいけません。

スポーツ選手の引退後のセカンドキャリアにおすすめの資格とは?

さて、スポーツ選手のセカンドキャリアにおける資格取得の価値について理解したうえで、どのような資格を取ることがおすすめなのかを見ていきましょう。

もちろん、やりたいことがあるならば必要に応じてそれに準じた資格を取ることが重要ですが、今すぐに「これをやりたい!」というものがないのであれば「業務独占資格」や「名称独占資格」を取ることをおすすめします。

これらの資格は、資格を持っていなければ従事できないことが多いため、一般的に「一生くいっぱぐれない資格」、「定年のない資格」とも言われています。

以下、「業務独占資格」や「名称独占資格」の一覧(一部)と取得方法などをまとめたので参考にして下さい。

※取得方法について詳しくは各ホームページをご覧ください。

業務独占資格一覧(取得方法・仕事内容)

資格名取得方法内容
あん摩マッサージ指圧師国家試験治療・リラクゼーション
医師国家試験(実務経験)治療
一級建築士国家試験(実務経験)設計・工事監理
看護師国家試験治療
気象予報士国家試験気象予報
公認会計士国家試験監査・税務
作業療法士国家試験リハビリテーション(社会復帰)
司法書士国家試験登記代行
社労士国家試験労働および社会保険関連の手続き事務
宅建士国家試験不動産取引
美容師国家試験美容
薬剤師国家試験調剤・MR
理学療法士国家試験リハビリテーション(機能回復)

名称独占資格一覧とその取得方法(取得方法・仕事内容)

資格名取得方法内容
管理栄養士国家試験栄養指導・労務管理
介護福祉士国家試験(実務経験)介護
社会福祉士国家試験障害者等の生活サポート
中小企業診断士国家試験中小企業のコンサルティング
調理師認可養成施設の卒業調理・衛生管理
保育士認可養成施設の卒業保育

資格取得で成功したセカンドキャリアの一例:スポーツ選手から士業へ

では、実際にスポーツ選手から公認会計士へと転身した、奥村武博さん(元プロ野球選手)を例として挙げましょう。

1997年11月にドラフトにて阪神タイガースに投手として入団したものの、怪我による手術やリハビリに苦労し、2001年に戦力外通告を受けたことで現役を引退することになりました。
その後、1年間は打撃投手を務め、野球から離れ飲食店で働き始めました。
そんななか「このままで良いのか?」という将来に疑問を抱き、ふと手に取ったのが資格のガイドブックでした。
そのなかで商業高校出身だったこと、試験資格が高卒以上に変わったこともあり「公認会計士」を目指すことに決めました。
そして、アルバイトと両立しながら9年間の勉強の末に、34歳で公認会計士の資格を取得することができました。
資格取得後は、監査法人に就職し様々な知見や経験を積み、現在は一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構の代表理事と税理士法人オフィス921で税務業務やスポーツビジネスコンサルティングを行っています。

球界初のプロ野球選手から公認会計士へ。現役時代も引退後も苦労と努力を重ねてきた元タイガース奥村武博さんインタビューから一部抜粋・編集

奥村さんの場合、引退後の準備はしておらず、「飲食店で働く」というセカンドキャリアをスタートさせたのちに、疑問を覚えて公認会計士の資格を取ることに決めました。

公認会計士の資格はご存知の通り難関資格の1つなので、まともに勉強をしたことのない彼にとっては未知の領域といっても過言ではないでしょう。

しかし、彼は9年間に渡り勉強する中で、野球で培った能力が生きていることに気が付きます。

課題に対してPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善のサイクル)を回す能力、コツコツと努力を積み重ねる能力、プレッシャーをモチベーションに変える能力、問題を発見・解決する能力…など、野球をすることで身に就いたのは野球スキルだけではなく、ライフスキルであることを確信しました。

だからこそ、今まさにアスリートのセカンドキャリア支援制度を整えたり、デュアルキャリアの考え方を浸透させるための活動を行ったり、スポーツ選手の資産形成のサポートを行ったりしているわけです。

このように彼は資格が目的にならず、資格を自らが抱えていた問題を解決する手段として使い、自らのアイデンティティでもあるスポーツ界に大きな利益をもたらしているのです。

資格取得はスポーツで身に付けたライフスキルを後押しする1つの手段

僕は、アスリートやスポーツ選手のセカンドキャリアとは、競技スポーツで得たライフスキルを社会で発揮する場だと考えています。

このことについては、先ほどの例に挙げた奥村さんだけでなく、サッカーの本田圭佑選手もアスリートのセカンドキャリアについて以下のように語っています。

でもアスリートになった人って才能があるんです。
何の才能かっていうと、努力できる才能があるんです。
この努力できる才能は、今のサラリーマンの人たちはもともとスポーツでアスリートを目指してなれなかった人達が大体多くサラリーマンになってるわけですよ。
起業家になったり、実業家になったり。
だいたい部活動してるわけですよ。大社長とかもね。
でもアスリートになれなかった。
もちろん悔しい想いをして今度実業家で努力を続けて成功したケースもあるかもしれん。
もともとアスリートって言うのは、努力できる才能は普通の人より長けてるんです。
ここがセカンドキャリアでものすごく大事になってくる成功の鍵なんで、アスリートで成功して勘違いしなければ、継続して努力はできるはずなんです。 なので謙虚な気持ちさえ持ち続けてやれさえすれば、もともとはこの強い気持ち、根性みたいなものが人よりはあるんで業種が変わっても必ず成功します。

アスリートのセカンドキャリアについて、本田圭佑選手に語っていただきました。から一部抜粋

この本文では「努力出来る才能」と表現されていますが、これも競技スポーツによって得られるライフスキルの1つです。

これは確かな事実だと思います。

むしろ、アスリートである意味は普通の人には出来ない経験を通じて、他人にはないライフスキルを得ることであるといっても過言ではないと思います。

アスリートは引退後に自分を過信したり否定したりしなければ、必ずやりたいことで成功する素養を持っているのです。

ただただ生活のために、収入を稼ぐために、一般企業に就職するという道しかないと思わない方が良いでしょう。

そのなかで資格取得というのは思う存分社会で力を発揮するための1つの背中を押す手段になると思うのです。

まとめ

さて、今回はスポーツ選手・アスリートのセカンドキャリアにおける資格取得についてみてきました。

資格取得は、引退したアスリートが社会で活躍するための1つの手段として大きな価値を持つことは間違いないでしょう。

しかし、その取得した資格をどのように使うのか、きちんと目的があってこそであることを忘れてはいけません。

僕は、奥村さんや本田選手同様にアスリートのセカンドキャリアには大きな可能性が秘められていると思います。

だからこそ、「能力を発揮しやすい環境づくり」と「アスリートへのキャリア教育」を両立していくことで、現状よりも社会にとって大きな価値が生み出せると思うのです。

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