データからみるアスリート・スポーツ選手のセカンドキャリアの現状

2020年の東京オリンピック開催に伴い、さらにスポーツ選手のセカンドキャリア問題が深刻化すると懸念されています。

そのため、国(文部科学省スポーツ庁)・競技団体(プロ野球、Jリーグなど)・民間企業(実業団)・大学など、様々な側面からセカンドキャリア支援制度の整備を進めています。

アスリートのセカンドキャリア教育の啓蒙、現役を引退するアスリートと中途採用したい企業のマッチング、コンサルタントによるキャリアカウンセリングなど、単なる就職斡旋に留まらず支援を行っています。

では、それらの支援は実際にどのようなセカンドキャリアの現状を生んでいるのでしょうか?

今回は、アスリート・スポーツ選手のセカンドキャリアの現状を笹川スポーツ財団の「オリンピアンのキャリアに関する実態調査」によるデータをもとに明らかにし、今後の展望について考察したいと思います。

アスリート・スポーツ選手引退後のセカンドキャリアのデータ

この記事で扱うデータは笹川スポーツ財団が中心となり現役・引退オリンピアン(オリンピック出場経験者)を対象にアンケート調査を行ったものになります。

この調査は、「2020年東京オリンピック・パラリンピック開催およびその後の社会において、オリンピアンがより効果的にスポーツ界に貢献できる環境の整備を進めるにあたり、オリンピアンの現状を包括的に把握することの重要性に鑑み、わが国のオリンピアンのキャリアに関する基礎資料の収集を目的」として行われました。

そのなかでも特にセカンドキャリアの現状を読み解くために必要なデータである、引退年齢・引退理由・現在の職業/雇用形態・現在の職業の選定理由・現在の職業への入職経路・現在の年収・引退後の競技との関わり、について取り上げたいと思います。

※この調査では現役アスリート・引退したアスリート両者に対してアンケートを行っているため、アスリートのキャリアの目安として参考にして下さい。

※出典:笹川スポーツ財団「オリンピアンのキャリアに関する実態調査」

データで読み解くスポーツ選手のセカンドキャリアの現状:引退年齢

オリンピアンの引退平均年齢は、下記の通りになりました。

全体:29.9歳
男性:31.1歳
女性:26.9歳

オリンピックに出場した競技の開始年齢が男性より女性の方が若いのと同じく、引退の年齢も男性より女性の方が若いという調査結果が出ました。

引退最年少は男女とも18歳で、最年長は男性が70歳、女性が 54歳となりました。

18歳で引退した競技は「自転車」、「体操」、「水泳」、「スケート」であり、一方の最年長者は「サッカー」で、シニア部門の大会まで現役を継続したと考えられます。

データで読み解くスポーツ選手のセカンドキャリアの現状:引退理由

夏季大会への出場経験をもつオリンピアンの引退理由は、下記の通りになりました。

仕事を優先するため 46.0%
年齢による体力的な問題(体力の衰え) 45.5%
自己の成績に満足したため 18.1%
けが 14.1%
競技を楽しめなくなったため 8.8%
金銭的な問題 6.2%
その他 18.6%

引退理由として1番多いの「仕事を優先するため」では、男性の 57.1%に対し女性が 18.6%と大きな男女差が見られ、相対的に高い割合を示したのはやはり「年齢による体力的な問題」で、男女とも約半数が引退理由に挙げました。

一方で、女性の引退理由で男性を大幅に上回った項目は、「自己の成績に満足したため」や「競技を楽しめなくなったため」といったいわゆるバーンアウトのような心理的なものであることがわかりました。

冬季大会への出場経験をもつオリンピアンの引退理由は、下記の通りになりました。

仕事を優先するため 45.5%
年齢による体力的な問題 44.2%
金銭的な問題 18.2%
けが 13.0%
自己の成績に満足したため 10.4%
競技を楽しめなくなったため 5.2%
その他 19.5%

夏季大会出場経験者と同じく、「仕事を優先するため」では、男性の 57.4%に対し女性が 17.4%と大きな男女差が見られました。

また、全体の上位 3 項目は夏季大会出場経験者と変わらないものの、夏季大会では最も低い割合を示した「金銭的な問題」が、冬季大会の引退理由としては比較的に高い割合を示しました。

冬季競技特有の用具の調達と維持、競技施設への遠征費や施設利用にかかる経費が負担になったことが考えられます。

夏季大会と冬季大会ともに「その他」の自由記述には、「結婚・出産・育児」、「指導者転向・後進育成」、「所属チームの廃部」、「スポンサー契約の継続が出来なかったため」、「他のことをしたかったため」、「進学したかったため」などの回答がありました。

データで読み解くスポーツ選手のセカンドキャリアの現状:現在の職業/雇用形態

オリンピアンが生計を立てる給与を受ける職業は、下記の通りになりました。

会社員 23.3%
教職員 21.8%
会社役員 15.1%
自営業 11.5%
自衛官・警察官 3.6%
競技団体役職員 1.2%

また、オリンピアンの現在の勤務先での雇用形態は、下記の通りになりました。

正規雇用者 55.7%
契約/嘱託社員 16.7%
アルバイト・パートタイマー 4.7%
派遣社員 1.0%

データで読み解くスポーツ選手のセカンドキャリアの現状:現在の職業の選定理由

オリンピアンが現在の勤務先を選んだ理由は、下記の通りになりました。

能力・個性・資格が生かせる  27.3%
仕事の内容に興味があった 23.9%
とにかく仕事に就きたかった 6.1%

「その他」の記述回答には、「会社にチームがあったから」、「競技に携わることができるから」、「スカウト・推薦を受けたから」といった企業チーム(実業団など)に所属することで継続的に競技に関われる環境が整っていることが影響していると解釈できるものもありました。

データで読み解くスポーツ選手のセカンドキャリアの現状:現在の職業への入職経路

オリンピアンの現在の職業への入職経路(あっせん機関等)については、以下の通りになりました。

縁故(友人・知人等も含む) 35.4%
以前に勤めていた会社 8.8%
学校(専修学校等も含む) 7.7%
広告(求人情報誌・インターネット等も含む) 3.7%

「その他」に多くみられた回答は、「起業・自営」、「自身の就職活動」、「スカウト・推薦」がありました。

データで読み解くスポーツ選手のセカンドキャリアの現状:現在の年収

現在のおおよその年収については、下記の通りになりました。

収入はない 全体:3.9% 男性:2.2% 女性:8.4%
300万円未満 全体:19.1% 男性:15.0% 女性:30.5%
300万~450万円未満 全体:14.4% 男性:13.9% 女性:15.8%
450万~600万円未満 全体:14.1% 男性:15.0% 女性:11.6%
600万~750万円未満 全体:9.4% 男性:9.4% 女性:9.5%
750万~900万円未満 全体:11.0% 男性:12.4% 女性:7.4%
900万~1,200万円未満 全体:8.0% 男性:10.1% 女性:2.1%
1,200万円以上 全体:13.0% 男性:15.0% 女性:7.4%
答えたくない 全体:7.2% 男性:7.1% 女性:7.4%

「平成25年分民間給与実態統計調査」(国税庁 2014)によると、年間の平均給与は414万円であり、男性511万円、女性272万円と報告されており、オリンピアンの年収は国民全体の平均給与額と同等といえるでしょう。

データで読み解くスポーツ選手のセカンドキャリアの現状:引退後の競技との関わり

オリンピックに出場した競技との現在の関わりについては、下記の通りになりました。

競技団体役職員として 19.7%
愛好者として 18.0%
地域スポーツ指導者として 15.8%
強化スタッフとして 13.5%
部活動指導者として 10.6%

約8割のオリンピアンが、競技団体に従事して競技の普及や強化に携わったり、地域のスポーツ現場で指導者として活躍したり、自身も愛好者として競技を続けたりしている一方で、競技とは「関わっていない」オリンピアンが2割にのぼりました。

アスリート・スポーツ選手引退後のセカンドキャリアの現状と展望

これらのデータからみえてくるスポーツ選手のセカンドキャリアの現状は「30歳で現役を引退したら社会に出て、平均的な年収を得て生活する。」というものです。

つまり、セカンドキャリア問題の仕事・収入面についてはある意味解決できているといえるでしょう。

現役アスリート・引退したアスリート合計の平均年収ではありますが、国民全体の平均年収と同等なので、問題とは言えません。

また、職業に関しても大半が正規社員として会社に雇用されているため、定年退職を迎えるまで安定した収入を得ることが可能でしょう。

しかし、セカンドキャリア問題のアスリート本人の精神面については検討が必要だといえるでしょう。

現状を鑑みると引退後の生活には、オリンピックで活躍していた現役アスリートのときのような華やかさややりがいはありません。

それも生活するためにとにかく仕事をするしかなかったならなおさらでしょう。

個人差はあるもののスポーツ選手は引退を迎えるとアイデンティティの喪失が起こります。

スポーツ選手としての自分を失うことで、自分とはなんなのかを見失うのです。

元アスリートの不祥事・犯罪など、これらのセカンドキャリア問題の原因はアイデンティティの喪失によるものだと考えられます。

つまり、これからのセカンドキャリアの考え方や支援制度は単なる就職・転職やその斡旋だけではいけないということです。

現役アスリートのうちから「アスリートとしての人生」は「人としての人生」の一部であることを意識し、常に「人としての目標」を準備し、アスリートとしての経験をその糧にする(ライフスキルに落とし込む)というような考え方を啓蒙していく必要があるでしょう。

このように、現状としてアスリートの引退後のセカンドキャリアのハード面(仕事、収入など)は改善されつつあるものの、ソフト面(人材教育、人間教育など)はさらに力を入れていく必要があるでしょう。

まとめ

今回は、データをもとにアスリート・スポーツ選手の引退後のセカンドキャリアの現状と展望を考えました。

僕は、アスリートとして活躍した人であれば、必ずセカンドキャリアにおいても成功を収めることができると思います。

なぜなら、アスリートは高いライフスキル(課題発見・解決能力、忍耐力、完遂力など)を持っているケースが多いからです。

しかし、職業斡旋などのセカンドキャリア支援が整えば整うほど、その高いライフスキルを生かしにくい環境に身を置く人が増えていきます。

セーフティネットが整ってきたからこそ、セカンドキャリアでもアスリートのように自分で高い目標を設定して達成を目指すようなチャレンジをして良いのではないでしょうか?

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